山があるから、豊かな海が小泊にある。
現役で漁師を続ける吉田さんは、津軽半島の北端に近い小泊に暮らす87歳の元気なおじいちゃん。 戦時中は海軍として、駆逐艦の砲手を務めるこ ともあったが、その目はずっと日本海を見てきた。
 「小泊は水に恵まれ、不自由したことがない」と吉田さんは語る。昔はつるべ井戸から生活に必要な分を汲ん でいたが、地下水が豊富にあることで近所にはたくさんの井戸があったという。現在は冬部川から浄水槽を通 して水は提供されているが、小泊の水は美味い。「街の水は飲めたものではない」とさりげなく自慢する。
 裏庭を案内してもらうと、自家製菜園がひろがっていた。雑草は抜かれキレイに管理されている。片隅には肥 溜めがあり、「ウチのは無農薬だよ」と笑い、ブドウを 一房いただいた。甘酸っぱさと、どこか懐かしい味が口にひろがった。 吉田さんが幼少の頃、小泊を流れる小泊川はもっと蛇行し、田を守るための土手と杭で築いた堤防があった。 しかし、大雨により浸水することが度々あったと言う。現在はコンクリート護岸の川が海に向かってまっすぐ 流れる。87年という時の中で小泊も変わり続けインフラ整備も整いつつある。 
 しかし、かつてブナやヒバが生い茂った山々が、伐採され、道路により山が切られていくことで海に深刻な影 響が出ていると吉田さんがつぶやいた。「以前は豊富に 採れたモズクやエゴが少なくなっている」その原因は海岸に接する山からの土の流出により、漁場が埋もれて いくことにある。 道路の開通による便利さを喜ぶ反面、山を崩し、森を切りひらいたことにより「山の獣たちや漁場に変化が起 こる」そして「もう戻らないという悲痛さを感じる」と孫や曾孫の写真に囲まれ語る姿は、生まれ育った小泊 の未来を尚見つめていた。